第58回 有限会社ファームデザインズ 取締役社長・海野泰彦氏
全国の百貨店催事で人気を博す話題のスイーツ。北海道の酪農家が作るチーズケーキだ。生産者はファームデザインズの海野氏。みずからが搾った牛乳をチーズケーキに加工し、催事では販売員としても活躍。生産者(第1次産業)が、加工(第2次産業)から販売(第3次産業)まで手掛けるため、1×2×3=“6次産業”とよばれる新しいビジネス展開。某有名テレビ番組でも“農業再生のカギを握る人物”として特集された。

関西出身。山登りが趣味でアウトドア生活に憧れて北海道の帯広畜産大学に進学。卒業後は農協職員として勤務し、26歳のとき離農した酪農家の土地を購入、酪農家としての人生をスタートさせる。現在は酪農家でありながら、スイーツの製造・販売、レストラン経営、海外フランチャイズ展開まで手がけ年商は2億円。息子さんが酪農を、娘さんがレストラン経営を担当。海野氏は日本全国から海外まで飛び回り、酪農の魅力を伝えている。


電話番号/0153-64-2310
“酪農家のつくるスイーツ”。だからシンプルで毎日食べても飽きがこない

チーズケーキをおいしいと言ってくれる方から「特別なレシピなのですか?」とよく聞かれますが、レシピはいたって普通。ここで全部公開してもいいぐらい。愛情をこめて育てた牛のおいしい乳があるからこそ、このチーズケーキは特別な味になっているのです。まさに自然の恩恵。
私が作っているのは“パティシエがつくるスイーツ”ではありません。ましてや“経営者がつくるスイーツ”でもない。“酪農家がつくるスイーツ”だと考えています。その本質を私は常に意識しています。原材料に自信があるから、華美なデコレーションは無用。毎日食べても飽きがこない。本質が見えているので作るべき味もおのずと決まってくるだけのこと。特別なレシピがあるわけではないのです。

世界的に有名なアイスクリームメーカーでも使われている素晴らしい牛乳なのに、生産地で飲めないなんてもったいないでしょう。そこで、牧場の近くにレストランをオープンし、朝に搾った牛乳を飲み放題(300円)で提供することにしました。レストランとして食事メニューやデザートなども考えていくなかで、現在の看板スイーツのチーズケーキが誕生したのです。
私は大学生のころ、フレンチとイタリアンのレストランで働いていたことがあったので、料理の知識は多少ありました。「お前は料理人になれる見込みがある。しっかりやれ!」とシェフから殴られたりもしながら基礎をたたきこまれて。当時は大変でしたが、今はその時に教えてもらった知識がとても役に立っています。人生、何が役に立つか分からないものですね。いやもしかすると、役に立たない経験などないのかもしれません。
やめる勇気。そこから生まれた海外展開という新しいチャンス。

牧場の魅力を知ってもらうために、レストランには世界の牛グッズを飾っています。「こんな田舎町に酪農家が経営する素敵なレストランがあるのだ!」と驚かせたいのです。こういった私の考えやコンセプトをもっと多くの人に知ってもらいたくて、北海道内にレストランを最大で5店舗広げたこともありました。売上げはそこそこいくのですが、私が一番伝えたい牧場の魅力がなかなか伝わらない。結局ファミレスみたいになってしまって…。だから3年前に、思い切って本店以外すべてをクローズしました。

「シンハービール」とは話し合いを重ねて、契約の書類はもちろん、人間同士の信頼関係を結ぶこともできました。タイの市場相場に換算すると1ピース1000円ぐらいの高額なチーズケーキを2011年から販売スタートしました。驚いたのは、富裕層だけでなく中間層のタイ人がファンになってくれていること。チーズケーキ専門店を7店舗展開し、現在8店舗目のオープンに向けて進行中。隣国のシンガポール、マレーシアからもビジネスの問い合わせがきています。
働き始めて10年はひたすら努力した方がいい。その経験は必ず報われる。

でもその間、「辛い」と思ったことは一度もありません。好きなことを仕事にできて幸せです。若い人によく言うのですが、もし仕事が「辛い」ならそれは好きな仕事じゃない。早く次を探した方がいい。
“飲食”はいい仕事です。お客さまの喜ぶ顔を間近で見ることができるし、自分の腕一本で食べていける。ただ、飲食は一人前になるまでに非常に時間がかかる。働き始めて10年は修行だと思って、四の五の言わずにしっかり努力すること。その努力や経験はかならず報われます。

Copyright 2010 keystone inc.,ltd All Rights Reserved.